肉もやしいため

おいしい

20代の前半から約11年くらい好きだったバンドがあった。

 

そのバンドは3人構成で、ギター2人が前バンドの解散&脱退を経て一緒に音楽をやろうと意気投合し、ボーカルはオーディションで選ばれた人だった。

 

ギター2人は前バンドがその界隈では随分人気でテレビとかにも出たことがあった。

けどボーカルはバンド活動と言うものが初めてだった。

歌はめちゃくちゃ上手いんだけどね。

 

私はギターの1人をずっと追いかけていた知人に声をかけられたのをきっかけにそのバンドを追いかけるようになった。

 

それまで私にとって音楽とはクラシックとかディズニーとかテレビでよくCMをやっているJPOPとかアニメ&ドラマの主題歌くらいでしかなかった。

歌は大好きだったけど、バンドという存在をちゃんと知らなかった。ロックバンドは漠然と不良だと思っていた。

だからそのバンドきっかけで激しい音楽を聴いたり、ライブで暴れたりヘドバンしたり、ツアーにたくさん通ったりする事はとても新鮮で、10年も経てば古参ファン()ぶったりしてライブでは腕とか組んだりしそうなもんだが、いつまで経っても毎ライブごとキャッキャと楽しんだものだった。

 

バンドは私が通いだす1年くらい前に結成されていて、実質私はそのバンドが生まれてからほとんどずっと一緒にいた。

 

行かないと言っていたFCイベントやFC旅行にも行った。

そのバンドのボーカルが大好きで、私個人を認知はされたくないけど、いつでも「貴方のファンはちゃんといます」と伝えたいと思っていた。

 

このバンドがいつか大きな会場を埋められたらいいなと、5〜6年目の頃には思っていた。

こんなに良い曲を出すのだから、いつか認められてほしいと思っていた。

 

でも8年目くらいに気付いた。

このバンドはもう大きくならない。

曲もメンバーも悪いことなんてほとんどない。

ただ、ただただ宣伝が下手くそだった。

事務所所属じゃなくて独立した個人事務所だったから宣伝も自分達でしなきゃいけないんだけど、言っちゃ悪いがド下手くそだった。

正直変わってくれと思うレベルの下手さだった。

ここらへんは割愛するけど、ファンの姿を見てる限りでも、私はこのバンドは先は長いかもしれないが大きくはなれないと悟った。

だからってライブに行かなくなることはなく、お金も落とすし大切だった。

 

でも10年を迎えてこれからもっと色んな曲出そうねって空気だった時に、バンドが突然活動休止のお知らせを出した。

正直分かってた。

何故か唐突に事務所の住所が変わった。ホームにさせてもらってるライブハウスが郵便物の宛先になった。

つまりは事務所兼スタジオ付きの活動場としていたマンションの契約を更新しなかったんだろう。

何故かいつのまにが終わってしまったラジオの配信も、撮り下ろしの写真に使われていたソファが事務所でみんながお気に入りだって言っていたソファだったことも、その写真の背景がホームにしていたライブハウスだったことも、そのソファがそのライブハウスにあったことも、全部繋がって、ああ、お金がなかったんだって気付いた。

私が多少払うグッズ代では賄うことができなかったんだろう。

 

バンドの活動休止の理由はボーカルの持病の治療のためだった。

私はこれを嘘だと思った。

もちろん理由の一つではあるだろうけど。

立ち行かなくなったんだと分かった。

私達程度のファンの人数ではどんなグッズを出してもバンドを支えられない。

でもそんな事とても言えない。

言ったら「もっとお金払えよ」って言うのと同じになっちゃうからね。

正直その理由をリーダーが語るのはすごく不愉快で、ボーカルのせいにしないでとめちゃくちゃ思ったけど、仲違いしたわけでもなし、ていのいい理由も述べられなかったんだろう。

 

リーダーは「良くなったら戻ってくる」と言うような事を濁した。

私はそうあってほしいと思った。

 

活動停止前にFCイベントと最後のライブを用意してくれた。

イベントで「戻って来てくださいね」と伝えた。

リーダーは戻ってきたいような事を濁した。

もう1人も濁した。

ボーカルは「うん」と一言も言わなかった。濁しもしなかった。肯定と取れるワードは一言も言わなかった。

恐らくボーカルはもう戻ってくる気が無いのだなと思った。

だてに10年以上見てきてない。ボーカルはどんな時でもこちらの言葉を受け止めてくれる子だったのに、濁しもしなかった。

嘘のつけないタイプだから、嘘をつけなかったんだろうなと思った。

 

そんな活動停止からもう2年くらいたつ。

最後のライブから一度も音源を聴いてない。

あんなに聴いてたのに一度も聴けてない。

聴こうとすると心臓がバクバクする気がして聴けない。

ウォークマンには入ってるのに。

 

ダメなんだな。聴くと悔しくなる。

誰かのせいにしたくなる。

リーダーには申し訳ないけど、リーダーの優しさが私を傷つけたと言いたくなってしまって。

これからも聴けると思えない。

あんなに大好きな曲だし、今でも大好きな曲なんだけど聴けない。

 

ボーカルはこのバンドのために上京してきた子だったから、恐らく実家に戻っているだろうと思う。

だってボーカル以外はどんな形かはわからないけど音楽を続けていくって言ったのにボーカルは言わなかったから。

恐らくもうプロでやるつもりはないんだろう。

諸々割愛するけど、彼は多分もう疲れてるから、好きな歌を好きでいるために、プロとして歌うつもりはもうないんだろう。

 

だから私にはもうボーカルの姿を見る手段がない。

他ギターはそれぞれ新しいバンドに巣立ったのに、私はいつまでも姿の見えないボーカルだけを待っている。

 

FC旅行の時にボーカルが秦基博さんの「鱗」と言う曲を歌ってくれた。

この曲を聴くとファンのことを思い出すんだと言っていた。

会いたい会いたいって思うんだと。

私はボーカルの歌ってくれたこの歌をずっと聴いている。

会いたい、あの歌声が聴きたいと思っているくせに、MVも曲も聴けず、ただこの鱗を聴いている。

解散と言われなかった事が救いだったのか呪いになったのかわからない。

いつまでも私は彼らの曲を聴くことが出来ず、想いを昇華させることも出来ず、ずっともう戻ってこない彼らを想って、この曲だけを聴き続けるんだろう。